ブックレビュー4題



たまには、読書感想文を。とりあえず、ハードカバー4冊。



★梓澤要「女(おなご)にこそあれ 次郎法師」(新人物往来社、2400円税別)



歴史文学賞出身の著者の作を読んだのは、しばらく前の「百枚の定家」以来。巻末の著者略歴を見ると、女性のようだ。

徳川譜代筆頭井伊家の礎を築いた直政の養母にして女ながらに井伊谷の領主となった次郎法師直虎を主人公に、今川方に属した井伊家の苦難、いちどは領地を失い、その後万千代(直政)を家康に出仕させることで再興をなすまでがえがかれる。家康の室築山殿の母は、井伊家の出として書かれている。



とても興味深く、面白く読んだ。が、途中(206頁あたり)で、一部、井伊直親(直政の実父)の父親の名と叔父の名が混乱しているので、読者の私の頭も混乱した。これは校閲のミスなのか?



★西木正明「一場の夢 二人の「ひばり」と三代目の昭和」(集英社、2200円税別)



昨年末に読んだ本。

国民的歌手の美空ひばりが登場する以前に、同じ芸名を名乗っていた映画女優がいた、というのはこの本ではじめて知った。美空ひばりを側面、裏面から支えたひとたちのエピソードをノンフィクション・ノベルというかたちに仕立てていて、一般的な美空ひばり伝とはまたちがった迫力と面白さがある。



海堂尊チーム・バチスタの栄光」(宝島社、1600円税別)



第4回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作。

選考委員たちの絶賛度の高さが、いささか異様。そもそも、キャラが立っている、みたいなものいいは小説を評価する言葉ではなく、かえって劇画ふうの軽い印象を与えている。

この小説が読ませるのは、「キャラ立ち」探偵の活躍よりも、心臓外科の、それもバチスタ手術という先端医療を扱って、医学ミステリーとしての謎や情報的な面白さで読み手の関心を引っぱるからだ。後半の展開に較べて前半はまどろっこしく、その前半部分で挫折する読者はいないのだろうか?



篠田節子「讃歌」(朝日新聞社、1700円税別)



ひとを感動させる音楽、演奏とはどういうものか。西洋音楽における正しい解釈と確かな技術をもって奏される音楽と、不確かな技術でも日本人の心を揺さぶる演奏。後者がマスコミやたくさんの聴衆の支持を得たときに起こる不協和音。ドキュメンタリー番組の放送、CD発売などを絡めて、元天才少女の虚実をめぐる運びがスリリング。



結局は・・・出来るのにあえてそうしているのか、出来ないからそうしているのか、というちがいになってしまうのか。それとも、西洋音楽と日本人の感性の間には埋められない溝があるということか。

クラシック音楽ではない(日本の)芸術ともなれば、評価はもっと曖昧で掴みどころのないものであるはず。