北の零年



映画「北の零年」を見た。



お登勢」と同じ幕末から維新期の稲田騒動を背景にした作品ということで、その比較がつとにいわれている映画。エンディングでは、船山馨の「お登勢」「石狩平野」は参考文献としてクレジットされている。



私はあくまでも、芸術座の舞台での「お登勢」しか知らないのでそれとの比較になるが、舞台の第三幕(北海道に移住してから)にあたる部分を、稲田家々臣の妻女の視点でえがいたのが「北の零年」だ。



幕末、徳島藩の城代として淡路をおさめていた稲田家は、佐幕の立場をとる蜂須賀本家とは別に、勤皇派として動いていた。維新後は、徳島藩からの分離独立を願った稲田家だが、認められず、かえって徳島本藩との対立が激化し「稲田騒動」に発展、新政府はその後始末として、(勤皇派だった)稲田家のほうを北海道へ移住させる。

というのが、舞台「お登勢」の第一幕と第二幕で得た概略。



お登勢は、徳島本藩の家臣の家に奉公に来て、稲田家の家臣である侍(津田貢)に恋をし、稲田騒動の後に結ばれ、ともに北海道へ入植する。



映画「北の零年」では、(稲田騒動そのものはえがかれず)北海道へ移住後の稲田家家臣団の苦難と、生き様が中心だ。吉永小百合さんが主役だが、群像劇的な視点も加わる。 絶望的なほどの雪、また雪。いなごの大群の襲来などは、映像ならでは。



  



映画を見た日は、暖かくなるという天気予報ほどは暖かくもなく、上映前にコーヒーなんか飲んでしまったのも災いして、途中、トイレに行きたくなり、困った。



映画館の暖房もあまり効いてなく、しかも、スクリーンに映る大後寿々花ちゃんは、雪ん子さながらの格好である。上映時間は長いし、大後寿々花ちゃんの出番が終わったらトイレに立とうと決めたはいいが、寿々花ちゃんの出番が長くて、ついには母娘で雪中行軍して凍死寸前、「八甲田山死の彷徨」も真っ青なシーンに見ているほうも凍りつきそうで、我慢も限界!



5年のときが流れたテロップが出て、急いでトイレに駆け込み成功。



(すっきりしたところで(笑)…)さて、この映画、主だった登場人物のえがかれ方に、揃って不満を感じる。



主人公の志乃(吉永小百合)は、万年おぼこふうで、自分たちを捨てた夫への感情が曖昧なまま。

小っちゃい多恵(大後寿々花)は、とってもかわいくて健気だが、顔立ちも役どころも整い過ぎていて隙がなく、優等生そのものな印象。

大っきい多恵(石原さとみ)は、母娘よく似た雰囲気がいいが、演技がおぼこ。

役人になり、捨てた妻子の前に現れる夫(渡辺謙)は、いやな奴で、あのまま黙って帰していいのか、という気分にさせられるし。

函館戦争の生き残りで、母子を見守るアシリカ(豊川悦司)は翳のある格好いい役なのに…活躍が中途半端なので、溜飲が下がらず。



入植者たちを食い物にして出世する薬売り(香川照之)が登場して、政府方面からの支援があったことは分かるものの、入植時からの経済面などが具体的でないため、苦しむ状況は見えても、理解に結びつかないところがあった。





淡路時代の多恵が小鳥を捕まえようとする映像の大後寿々花ちゃんが美しく、可憐だ。