地球投五郎宇宙荒事 (EXシアター六本木)


六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事(ちきゅうなげごろううちゅうのあらごと)」

2月17日(火)に、昼の部を観劇。午後1時開演。

ロビーに掲出されていた上演時間は、『第一幕約50分、休憩約20分、第二幕約70分』 じっさいの終演は、午後3時37分ぐらいだった。


「夜でもヒルズのお膝元」だという、会場のEXシアター六本木は、1階が入口、エスカレーターでひとつ降りると2階席、さらに降りると1階席、という構造で、出入りするには2階席のほうが便利なのは、たとえば、エントランスのフロアが2階席になっている赤坂ACTシアターに似た感じかな。

やたらとコインロッカーがあるのは、コンサート等で、客が総立ちで騒げるようにと手荷物を入れられるロッカーを配備しているということなのか?

入場の際の配付物のなかに、「嵐が丘」のチラシがあって、うれしい。「嵐が丘」は、松竹さんだからだね。松竹さん・・・・(この芝居では、成田屋萬屋と市川鯛蔵が、何度も「松竹さん」っていっていた)


元禄時代の江戸は浅草に、駄足米太夫(獅童)を頭目とする宇宙人が出現した。エイリアンの襲来は秘密事項なので、浅草寺の和尚(市蔵)は、とりあえずこれは芝居だとして誤魔化すことにし、ヒーロー鎌倉権五郎を演じる市川團九郎(海老蔵)を呼び出して、これを迎え撃ったが、吉原随一の花魁・高窓太夫(尾上右近)をあっさりと攫われてしまう。
高窓太夫は、実は将軍家の姫君で、犬将軍・綱吉(萬次郎)の頼みに加え、米太夫の師匠だったという長老・与駄(加藤清史郎)の叱咤もあって、團九郎は宇宙へ飛び出してエイリアンと対決、米太夫の放った隕石攻撃から守るために地球を動かした。
・・・と、まぁ、こんな話かな。

1階客席の通路部分をベースにして、変形(L字型)の花道が設けられていた。


一幕も二幕も、最初に「発端」として、海老蔵獅童の隣り合わせの「楽屋」(もちろん、上手側が成田屋の楽屋だ)でのやりとりがあり、ここに、海老蔵の部屋子という設定の市川鯛蔵(加藤清史郎)が絡んでのドタバタがある。
この発端は、観客を舞台の世界へ誘導する前説的なところがあって、加藤清史郎くんがそれを担っている。

獅童丈にずいぶんといじられる役回りで、アドリブもあるようで、笑っちゃってセリフがいえなくなったり、ろれったり噛んだりと、市川鯛蔵という役ではあるが、かなり素の表情が覗くのがおもしろい。

二幕の「発端」では、鯛蔵(というより加藤清史郎くん)が、客席でケータイが鳴っているといって、花道近くのお客さんのケータイを取り上げて「お母さん」に電話をかける、という客いじりもあった。ケータイを貸したお客さんには、僕の千社札をあげますとかいうので、シートで渡すのかと思ったら、一枚べたっと貼ってたみたい。

さて、「発端」では、今回の六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」が企画、実現に到った経緯が、海老蔵丈と獅童丈の会話によって語られるが、ブログだの結婚だのというタイムリーな話題も織り込まれるので、客席は大ウケである。この発端において、海老蔵獅童の両優は、舞台上の楽屋で化粧をし隈を取り、さらにはお弟子衆が出て来て鬘や衣裳を付け、観客の目の前での生拵えで、荒事のヒーローと敵役の公家悪が出来上がる。


宮藤官九郎の脚本で、どんなおふざけになるかと思いのほか、歌舞伎芝居の骨法、役柄を踏まえた作劇で、たいへんにおもしろい。藤間宗家が監修・振付ということもあるのか。
歌舞伎十八番スターウォーズのパロディ、ということでしょうか。とくに第一幕は、「暫」のアレンジになっている。

太夫の手下どもは、腹出し。米太夫が実は将軍綱吉の子で、團九郎こそ実は宇宙人だったなどなど、実ハの連発や、赤子の團九郎と米太夫の入れ替わりが取り替え子っぽい設定だったり、米太夫の赤く光る大太刀に銀河丸という名が付いているのも、歌舞伎でおなじみの宝刀を彷彿させる。その、奪った銀河丸と合わせて、2本の大太刀を手にしての、第一幕の鎌倉権五郎の引っ込みは、大いに勇壮である。

團九郎や与駄の顔が浮かび上がる映像や、クレーンを使ったシーンは、歌舞伎としては斬新で、宇宙を舞台にした演目とも合致している。團九郎が巨大化するのもおもしろい。


所化の右坊(竹松)と左坊(市川福太郎)のうち、右坊は高窓太夫とともにUFOで連れ去られるので、第二幕にも出番があるが、福太郎くんの出演は第一幕のみだった。(なお、舞台での鯛蔵との絡みは、なし)

加藤清史郎くんは、鯛蔵での登場よりも与駄のほうがセリフがしっかりしていたが、これは、与駄(902歳という設定)が役らしい役だからだろう。二幕で、与駄と鯛蔵を演じ分けるシーンがあったが、さながらジキルとハイドのようで、達者なところを見せた。

与駄が、高窓太夫こと鶴姫に、ペシッと叩かれるところが、えらく可笑しい。


他に子役は、『秋山聡・榎本陸・河城英之介・重田恭佑』の4人が、ふたりずつの交互出演だった模様。
筋書(パンフレット)には、出演者としては載っているが、なぜか配役には出ていない。
役は、第二幕での、芝居小屋の客の子供。

(ところで、テアトルスタッフブログには、出演情報として、榎本くん、河城くん、重田くんの名前は出ていたのに、秋山くんの名前はなかったが、秋山聡くんはもうテアトルアカデミーの所属ではなくなったのかな)


いったん幕を引いたあとで、最後は、加藤清史郎、市川海老蔵中村獅童の3優が舞台に座して、「まずこんにちはこれぎり」となる。カーテンコールではなく、切口上が付いたのも、歌舞伎らしさになっていた。