前進座創立80周年記念五月国立劇場公演(国立劇場大劇場)


5月24日(火)に、前進座創立80周年記念五月国立劇場公演を観劇。この日、千穐楽。11時開演。

雨模様だったし、早目に家を出られたので、余裕を持って到着したら、まだ開場していなくて、しばらく待たされた。国立劇場主催の歌舞伎公演と同じつもりで来たのがあやまりだった。開演30分前にならないと、開けないんだって。

今回のチケットは得チケで、一等席9800円→5000円(+手数料300円)。

創立80周年とあって、見るのなら劇団の誕生日とされている5月22日に行きたかったが、なんとなく行きそびれて、この日となった次第。

演目は、

「唐茄子屋(とうなすや)」平田兼三 作、香川良成 演出
「創立八十周年記念 口上」
秋葉権現廻船噺(あきはごんげんかいせんばなし)」渥美清太郎 改訂、鈴木龍男 演出

2演目に主要な役で出演した藤川矢之輔嵐芳三郎の活躍が印象的な創立80周年記念公演であった。

千秋楽だったが、「口上」で千秋楽に触れていた以外は、とくに何もなく、カーテンコールもなし。

公演プログラム、1000円。


「唐茄子屋」は、1958年に初演。再演を重ねて来た前進座の人気レパートリーのひとつであるようだ。遊びが過ぎて勘当寸前に陥った大店の息子・徳三郎が、身をやつして唐茄子売りに出た先の貧乏長屋で、厚い人情にふれて気持ちを改めるという他愛のない話だが、嵐芳三郎が浮世離れした白塗りの若旦那を嫌味なく演じて、気持ちのいい一幕。芝居は、徳三郎が六兵衛伯父(村田吉次郎)の思惑で唐茄子屋に仕立てられるあたりから俄然面白くなるのだが、その前、序盤の伯父夫婦(女房おとめは、いまむらいづみ)と徳三郎のやりとりは運びがゆるくて、退屈する。

「唐茄子屋」の徳三郎は、五代目芳三郎、六代目芳三郎、圭史と受け継がれて来た役だというから、この創立80周年記念公演で七代目芳三郎が継承したことに意味があるのだろう。


子役は、長屋住まいの後家・おたね(今村文美)の子供で、小島幸士・山下怜央の交互出演。

プログラムでは、ふたりとも所属が「クリエイト」となっているのだけれど、検索すると、小島幸士(こじまゆきと)くんという子はスペースクラフトジュニアのようだから、これは、キャスティング事務所か何かが間に入っているということなのかな?[追記] 山下怜央くんは、NEWSエンターテインメント

上演時間は、1時間20分ほど。


30分の休憩後に、「創立八十周年記念 口上」

「口上」は、中村梅之助を真ん中に、座友の3人を含めて、17人の列座。ただし、口上を述べるのは、梅之助、嵐圭史、いまむらいづみ、河原崎國太郎藤川矢之輔の5人で、他の役者は名乗るだけである。
長谷川伸中村翫右衛門が贔屓で、10年もの間、前進座は同氏の戯曲を脚本料なしで上演出来たのだそうな。

最後は、矢之輔が音頭をとって、観客といっしょに手締め手締めは、「よよよい、よよよい、よよよい、よい」とやりますって。「伝七捕物帳」だね、懐かしいね。

「創立八十周年記念 口上」は、15分。


休憩が15分あって、「秋葉権現廻船噺」。

お家騒動+大盗賊日本駄右衛門。嵐圭史がスケール感あふれる大泥棒を演じる娯楽色の濃い芝居。間に10分の休憩を挟む。

家老の弟・玉島幸兵衛(芳三郎)は日本駄右衛門を追い詰めるが、幸兵衛は鳥目で、日が暮れた途端に目が見えなくなると、逆に捕らえられて、あぶらを搾られる。幸兵衛の身体から出たあぶらを傷口に塗ると、あーら不思議、駄右衛門を悩ませていた破傷風があっという間に治ってしまう。さらにスゴいのは、幸兵衛の鳥目が、秋葉権現の御利益で見えるようになる件り。そんなことで病が平癒するなら、だれでも、秋葉権現のお守りやらお札を買って来て火にくべて煙を浴びれば、病死する者などおらんようになるわいなァ。

3幕7場の上演予定だったが、『演出の都合により』序幕第一場「島原街道の場」はカットしたとのこと。別になくてもよさそうだが、でもこの場があることで、駄右衛門を苦しませる破傷風の原因となった刀傷が、月本家から古今集を奪ったときに付けられたものと分かるし、やはり主役は初っ端から登場したほうがそれらしいのでは。

大詰の足柄山の場は、駄右衛門の軍兵相手の立ち回りが長くて、いささか気持ちがダレた。5月の歌舞伎は、新橋演舞場の夜の部「籠釣瓶花街酔醒」の大詰(大屋根捕物)はあっけなくて物足りなかったが、こちらは逆で、なかなか終わらないなぁ…と。

松ヶ枝(玉島逸当の妻)の山崎辰三郎女形が、舞台を締めるシブい存在感で、記憶に残る。駄右衛門一味に潜入して、お宝の古今集を取り返す奴・浪平(中嶋宏幸)がおいしい役どころ。でも、せっかくの奴なのに「ねいねい」いってくれなくて、ちょっと欲求不満。

この日、終演は、午後3時39分頃。