サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ〜日曜日にジョージと公園で〜(PARCO劇場) 雑感


「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ〜日曜日にジョージと公園で〜」
(台本:ジェームス・ラパイン、作曲・作詞:スティーヴン・ソンドハイム、翻訳:常田景子、訳詞:中條純子、演出:宮本亜門)

これまでに、2回見たというのは、すでに書いたとおり。
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20090710/p2
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20090706/p1


この舞台では、日曜日の公演に集う人々をモデルにして、画家が大作の絵を仕上げるまでを、ミュージカルの第一幕として、ドラマ仕立てにして見せる。その第一幕が、面白い。

遠近法を視覚化するようにつくられた舞台装置からは、場の転換に合わせて必要な道具が出たり引っ込んだりして、壁に映し出される映像とともに、スピーディーな進行を支えている。

ジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」という絵について、絵画に関して心得のない私などは、あの絵はある日の風景をおよそそのままに描いたものだろうと考えてしまいがちだ。が、このミュージカルを見ると、そんな単純な思い込みが、あっさり覆される。

画家は、絵のなかに、必要なものをバランスよく配置し、不要なものは取り去って、ある日曜日の午後の時間を表現したのだということが分かって来る。第一幕での登場人物たちの設定や、ジョージ(ジョルジュ・スーラ)との関係はフィクションだとしても、絵の製作過程では似たようなことがきっとあっただろうと思わせる。そこに惹き込まれる。

公演に集う人びとは、ただ絵のモデルとしてジョージ(石丸幹二)によって描かれるだけでなく、それぞれの小さなドラマが交錯して、人間関係が浮かび上がる。

たとえば、看護婦(花山佳子)に付き添われた老婦人(諏訪マリー)がジョージの母親だったり(その会話からジョージの子ども時代が語られる)、成功している有名画家のジュール(山路和弘)は、ジョージの友人だが、ふたりの間には絵画という芸術に対するスタンスのちがいがあり、それはそのまま、今日にも通じる普遍的な対立であったりする。ジョージのことを愛しながらも絵の世界にだけ没入する彼のもとを去って行く恋人のドット(戸田恵子)と、絵には無理解で家庭も波乱含みだがジュールの妻として成功者の側にいるイヴォンヌ(春風ひとみ)とを、芸術家の妻(恋人)として対比的にえがいてもいる。

ジョージが労働者や犬、猿を絵のモデルとしたことへの批判が当時の画壇のあり方を推測させ、ボート屋(野仲イサオ)とジョージの会話や、ジュールと使用人の関係に見える階層の問題など、スーラや彼が生きた時代に詳しくなくても、読み取れる情報が埋め込まれているつくりも面白い。

ジュールとイヴォンヌの娘・ルイーズ(大下夕華・加藤実祐紀)は、ボート屋の犬を撫でたことから、彼との間に確執が生じ、ボート屋と追いかけっこになっている。


第二幕の最初は、ジョージの絵としてキャンバスのなかに閉じ込められた人物たちが、口々に、不満や文句をいう楽しい場面。第一幕の最後、絵に描かれるときに(ジョージに)メガネを外されたルイーズが、メガネを返して、何も見えない、メガネをとられた、と文句をいうのが格別のおもしろさ。

この絵のシーンにどう決着をつけて、1994年の次の場へ移るのかと思えば・・・絵のなかの人物によって、作者のジョージが31歳の若さで死んだことが語られると、そこで結界がほどけたかのように、順次、セリフとともに退場して行くという次第。この処理の上手さには、感嘆。


劇中、第一幕で、ジョージがモデルのドットをデッサンする場面では、ジョージはじっさいに絵を描いていた。石丸幹二氏のそのデッサンが上手なのかどうなのかは、私には何ともいえないが、本当に描いていることとともに、それらしく描いていることには感心してしまう。

この舞台は、セットの影響もあるかも知れないが、前方でも端のほうの席だと見づらい。中央とはいわないまでも、中寄りの席で見たほうが、作品そのものを楽しめるのではないか。

第二幕で、客席通路を使った演出があるが、これは、下手側。

オーケストラは生演奏だが、カーテンコールでの紹介は映像による。


映像といえば、第二幕のジョージ(ひ孫のほう)の作品「クロモリューム・ナンバー・セブン」というのは、このミュージカルのオリジナル映像なのだろうか。…それとも、今回の宮本亜門版で、美術なり映像の担当者が手がけたものなのか?

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関連ログ(抜粋)
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20090807/p1(「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」配役、他)
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20090716/p1(ルイーズはカーテンコールに出ない)